人生はまるで蜘蛛の巣のように。
狂乱の天使回から一変して今週は‥‥とはならず、なんと天使の声は持ち越しで、朝からウカレ気分の太郎はウッキウキでスクランブルエッグを焼いている。
「タマゴベイベーカモーン!」
一方で、夢に向かって走り始めた(はずだった)三枝に刺激され、シマさんと剛は就職活動を始めた。
「もう一度しっかり働いて、分かれた妻に会ってみようかな」
「俺ももう一回がんばろうかな」
スターになるべく秘密の特訓を重ねる太郎と三枝。
就職活動がうまくいかずに苦しむシマさん。
シマさんを案じる剛。
母親に再婚を勧められ、煮え切らない太郎に苛立つ礼子。
交錯する「能天気ふたり組」と「苦い現実」のシーンが、見る者の気持ちにギシギシとのしかかる。
こんなふうに、人の気持ちはすれ違い、ぶつかり続けるものだ。
「誰にこの天使の歌きかせたい?」と問われて、おばあちゃんより先に「礼子」と応える太郎。
少しずつ、太郎の中でも変化が起きてはいるのだ。
ただ、礼子とタイミングが合わない。
満を持して礼子を呼び出し、歌うふたりの首筋に、案の定もうあの噛み痕はなく。
「‥‥バカなの? バカだね。下手な歌聞かせてなんか楽しいの?」
「‥‥へ?」
やっとプロポーズかと思ったら三枝登場で下手くそきわまる「コンピューターおばあちゃん」を聴かされた礼子がキレるのも無理はない(笑)
「俺達悪い夢でも見てたのかなあ」
天使の噛み痕とともに、ふたりの夢は消えてしまった。
しょんぼりと、夜明けの町を歩くバカふたり組はかわいいんだけど。ここで終わってればいつものしんみりほろ苦い「おかしの家」で終わったんだけど。
ハローワークの職員に全否定されたシマさんの事を相談する剛に、夢破れた傷心の太郎たちはそっけない。
シマさんはシマさんで自暴自棄になり、就職が決まった剛に八つ当たりをしてしまう。
誰もが自分の事に手一杯で、そんな中剛だけが。
トラックにはねられた剛を振り返ったシマさんの、震えだす表情。
通夜から帰って塩をまくおばあちゃんと太郎
道路に供えられた花に手をあわせる礼子と春馬。
無音の中、いつものように裏庭に集まって、いつものように駄菓子を食べる4人。
「ごめんな、剛」
「いや、俺も言い過ぎました」
「ごめんな。俺が死ねばよかったのにな」
「いろいろあるけど、友だちがいたら絶対何とかなりますよ」
いつものような会話なのに、もうそこに剛の姿はなく。
夢のつづきは苦い現実で。
号泣するシマさんの横で、剛にかける言葉もなく太郎は立ち尽くす。
現実から逃避してバカみたいにうかれるのも、就職難も、子連れ再婚問題も、交通事故も、どれもありふれた現実だ。
そしてこんなふうに、現実を淡々と容赦なく描くのが石井監督だ。
あたたかくて、辛くて、もどかしくて悲しくて。うまくいかない現実から目をそらしている間にも時間はどんどん流れていってるのに。
でも、どんどん時間が通り過ぎているんだって事を知るために、さくらやの裏庭でいったん立ち止まるのは決して悪いことではないんじゃないか。
「剛くんは、もう来ないのねえ」
おばあちゃんの言葉に、ああ、きっとこれで太郎たちの「こどもの時間の続き」は、終わってしまったんだろうなと感じる。